氏名: 中島 弘道

論文題目: 環境とのインタラクションによる感覚運動系の自己組織化


論文概要

運動と感覚のインタラクションによる、音源定位能力の学習モデルを提案した。 生体 は左右の耳への到達時間差を基にして、音源の方向を推定することが出来る。も し音 の早さと左右の耳の距離を与えられれば、我々は時間差から音源の方向を簡単に 見つ けることが出来る。しかし、生体はそのようなパラメータは知らないし、時間差 と角 度の幾何的関係も知らない。このような能力獲得の基本となるのが、知覚と運動 の繰 り返し(知覚循環)による学習である。生体は外部からの教師なしで、知覚循環に よっ て自ら獲得した環境の情報のみから運動制御能力や感覚機能を得ていると思われ る。 このような学習モデルの実現は、他の様々な工学的システムの学習にも応用でき ると 考えられる。

本研究での音源定位は音の発生に対して首を回転させ、その音源物体を 視野の中央にとらえるものとする。音源定位は聴覚情報を処理することによって 行わ れるが、その学習過程においては視覚情報による首の回転が必要となる。つまり 音源 定位学習は、耳と首による聴覚的な定位(聴覚的定位)と、目と首による視覚的 な定 位(視覚的定位)を通して行われる。そこで、提案する学習モデルでは、聴覚的 定位 と視覚的定位の両方を自己組織的に学習する。モデルは、2つの自己組織特徴マ ップ によるモジュールから構成される。1つは視覚推定モジュール、 もう一つは聴覚推定 モジュールである。視覚推定モジュールは視野の中央から音源までの網膜上のず れを 入力とし、首を回転させる制御値を出力する。聴覚推定モジュールは左右の音の 到達 時間差を入力とし、首を回転させる制御値を出力する。それぞれのモジュール は、入 力空間と出力空間の2つの空間を持ち、入力空間の参照ベクトルは、出力空間の 制御 値に写像される。2つのモジュールが自己組織的に能力を獲得する事によって、 音源 定位を実現する。2つのモジュールは同時に学習が行われ、視覚モジュールは直 接逆 モデリングを用いて学習を行い、聴覚モジュールは視覚モジュールからの出力値 を用 いて学習を行う。

提案したモデルを検証するために、コンピュータシミュレーションによる 実験を行なった。テーブルに人の首に対応する ように1つのカメラと2つのマイ クを配置し、水平面上で回転する。音源は半径2mの半円上にランダムに配置され る。 首の回転可能範囲は±90度である。また、カメラの視野は±20度とした。実験の 結果、 音源定位能力が教師なしで獲得され、また音源が視野外にある場合にも正しく定 位出 来るように学習可能であることが示された。


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