本研究では、生体における眼球の小さな不随意性の運動(固視微動)に 示唆を得たビジョンシステム構成の検討を行った。
人間が眼球を運動させ注視位置を変える主要な役割として、 注視対象を分解能の高い網膜位置に映すことがある。 しかし、近年、眼球運動の役割の一つとして、 単眼での奥行き知覚の手がかりとなることが報告され、着目されている。 これは、眼球が回転する時の回転中心と、レンズ系の中心、 つまり光学中心とがずれていることにより観察位置が移動し、 視差が生じることによる。 すなわち、対象までの距離が遠ければ視差量(網膜上での像の移動量)が小さくなり、 対象までの距離が近ければ視差量が大きくなる。 これにより、対象の奥行きを相対的に判別することが可能である。
そこで、生体のさまざまな視線移動を採り入れたビジョンシステムを構築するという 枠組みの中で、視線移動が小さく不随意な固視微動を採り入れたシステムの構成を、 ここで試みた。
CCDカメラの視軸を回転運動により微小量移動させる事で、 カメラから対象までの距離に応じて、対象の画像上での移動量(視差)に 違いが生じる。 この視差量の違いを手がかりにして、対象の奥行きを判別するシステムを作成し、 実験を行なった。
作成したシステムにおいて視差量の測定を行ない、 カメラから対象までの距離に対する 理論的な視差量を算出するためのモデルを構築した。 これにより、 単一の視線移動における奥行き判別の限界と、 大きさの異なる小さな視線移動を複数回組み合わせることによる 奥行き判別能力の向上の可能性を確認した。
また、このモデルを対応探索時の探索範囲を限定するのに利用し、 実行速度の向上が得られた。
実験により、単眼の小さな視線移動による簡易なシステム構成で、 対象の奥行き判別支援に利用するのに十分な奥行き情報が得られることを確認した。
図1-1 判別対象 |
図1-2 奥行き判別結果 |
図1-3 赤線部の視差量 |
図1-4 単一の視線移動の場合 |
図2 視線移動の様子 |