感性の評価,紙面上の文字の読みやすさやアルバム写真の配置の良さなどを評価す
るために,横瀬の視覚の誘導場理論を工学的に応用する研究がなされてきた.視覚の
誘導場とは,図形の周辺には図1のような静電場が形成されていて,図形の周辺の
「見え」に影響を与えているという心理学的な概念である.
従来研究では,この場の強さを理論式で求め,感性評価の基準としているが,白黒
2値の画像の輪郭しか考慮していない.そのため,現在携帯電話やPDAにみられるよう
に,主流になりつつある液晶ディスプレイなどのデバイス上に表示される,文字や画
像が混在したレイアウトを総合的に評価するまでには至っていない.
そこで本研究では,視覚の誘導場理論を拡張するための研究を行った.内部を塗り
つぶしていない輪郭線のみで描かれた円と内部を塗りつぶした円を実験の対象とし,
従来研究では明らかになっていない,図形の輪郭線と図形の内部領域が誘導場に与え
る影響を測定し,比較を行った.実験は,図形の周辺に明るい小光点を呈示し,徐々
に明るさを弱めていって見えなくなったときの明るさ(閾値)を測定する方法で行っ
た.液晶ディスプレイを使用した心理実験の結果,塗りつぶした図形の方が塗りつぶ
していない図形よりも,明るい輝度で判別ができなくなる結果が得られた.これは,
図形の内部領域の効果が,視覚の誘導場に影響を及ぼしていることを示しており,従
来研究のように図形の輪郭だけを考慮するというだけでは,限界があることを示唆し
ている.
一方,輪郭線幅を変更した実験を行ったところ,線幅が大きい方が,より明るい輝
度で小光点の判別できなくなる結果が得られた.塗りつぶし図形での実験結果とあわ
せると(図2),線幅と誘導場の強さとの間に順序関係が成り立つ可能性が示された.
実際に文字に対して視覚の誘導場を用いる際には,線幅が重要な意味を持つことか
ら,本研究で図形の内部領域と誘導場との関係を示したことは有用であろう.
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