実環境でのブラインド信号分離においては,音源からマイクまでの伝達特性の違
いが,分離フィルタの構造を複雑なものにしている.分離フィルタ内でこの伝達特性
の違いを考慮する数であるタップ数を減少させることは,処理時間を短縮するために
意義あることである.
本研究では,指向性マイクを近接配置することで,充分な分離性能を保証しつつ,
分
離フィルタのタップ数を大幅に低減する方法を提案する.
伝達特性の違いは,複数マイクの空間内での位置が異なるために生ずる.そこで,
観
測用の指向性マイクを各音源に向けて互いに近接させて配置する(図1).近接配置に
より,音源からマイクまでの伝達特性の差をなくすことができ,指向性により観測信
号の振幅の大きさはマイク毎で異なる.このようなマイクで観測された混合信号は,
理論的にはタップ数1の分離フィルタで分離できるが,実際は,信号の到来方向によ
り,マイクの伝達特性が異なるため,分離フィルタも数タップを考慮する.
実際に,提案手法で観測された混合信号の相互相関関数を求めることで,本手法の
妥
当性を確認した.さらに,タップ数を1〜801の間で21段階に変化させて,一般的な
場合との比較実験を行った.その結果,提案手法には充分な分離性能が達成されてい
ることが示された.このことから,本手法は分離処理の高速化に有効であると結論で
きた.