背景と目的 人間の視覚機能の一つ一つを解明していくことが,視覚のモデルを構築するアプローチとなる。 ここでは「アノーソスコピック知覚」と呼ばれる,一種の錯視現象を取り上げる。 これは下図左に示すようにスリットの背後を動く図形(破線)を見たとき,線分が 順次呈示されることになる。 この時全体像が知覚でき,その図形が収縮して知覚される(実線の図形)と言う現象である。 これは視覚から入る映像が,なんらかの形で貯蔵されていることを示す現象である。 この現象を解明することにより,視覚刺激と貯蔵の関係を導くことができ,視覚の モデル構築の基礎になろう。この現象を説明するモデルの構築が,本研究の目的である。
実験 本研究では,アノーソスコピック知覚による図形の収縮効果を測定するために, 計算機を用いて心理実験を行った。 まずディスプレイ上でも,アノーソスコピック知覚が生じることを確認するために, 速度変化による収縮率の変化と,スリット幅変化による収縮率の変化を測定した。 その結果,一般の実験条件におけるアノーソスコピック知覚の収縮知覚に相当する, 図形の収縮知覚がディスプレイ上でも起こることを確認した。 次に,図形の形や色を変えて実験したが,収縮率の変化は見られなかった。 しかし内部パターンを入れた図形や,特に輪郭線を実線で描いていないような図形では, 収縮率に変化が起きた。
モデル
この説明として収縮の原因を,人が知覚した図形を処理する更新速度に着目し,
断続的な視覚入力の再構成時に収縮が生じることをモデルとした。
このモデルの妥当性を検討するために,図形の輪郭の有無と内部パターンを制御した
検証実験を行った。結果を下図右に示す。
輪郭線が実線でない図形では、線の補完処理などにより再構成に時間を要する。
このような図形において収縮率が上がっているのがわかる。
よってこの要因が図形収縮に対して影響を及ぼす可能性があることを確認することができた。